婚活女子とイケメン男子の化学反応
10
零士さんとの再会から、一ヶ月が過ぎた朝。
私は婚約指輪を外して、ジュエリーケースへと戻した。
「鈴乃、準備できた?」
「うん」
寝室へと入って来た零士さんが、私をギュッと抱きしめる。
「鈴乃」
零士さんは甘く切ない声でそう呼ぶと、私の左手を掴み指輪の無くなった薬指を見つめた。
「いよいよだな」
「そうだね」
目に熱いものが込み上げる。
零士さんは優しく微んで、私の涙をそっと拭った。
………………
再会してからの私達は、依然よりもグッと距離が縮まったと思う。
恐らく、私が敬語をやめて素直に甘えられるようになったのと、零士さんが分かりやすく愛情表現をしてくるようになったからだと思う。
「鈴乃。キスさせて」
例えば、こんな風に。
車が大きな信号で止まると、零士さんは決まって顔を寄せてくる。
青になって私から離れても、左手は常に私の手に重ねたままだ。
そして、私のスマホに電話の着信が入れば、凄く心配そうな顔をしてチラチラと見てくるのだ。
私にかけてくるのなんて、倉本さんか、派遣で働いていた頃の女の同僚くらいしかいないのに、と思うのだけど。
彼を安心させる為に、私は必ずスピーカーにして出る。
『もしもし、仙道さん? ごめんね、今大丈夫?』
『え………青山主任?』
画面の表示は倉本さんだったけど、声の主は青山主任だった。きっと、準備で忙しい倉本さんの代わりに彼がかけてきたのだろう。
『実は今日の式のことなんだけどね』
と、彼が話を始めたところで、早速、零士さんの牽制が始まった。
『鈴乃……後で代わってくれる? 俺もきちんと挨拶しときたいから』
スピーカーだから、青山主任にも丸聞こえ。
明らかに敵意のこもった口調に、電話の向こうの青山主任も苦笑いを浮かべていることだろう。
でも、そんな可愛いヤキモチをやいてくる零士さんが、私は愛しくてたまらないのだ。
「何だ………倉本さんの彼氏なんじゃん」
電話を終えた零士さんがポツリと漏らした。
そんな零士さんを見ていつまでも笑っていると、ジロリと横目で睨まれた。
「鈴乃さ、俺のことちょっと面白がってたろ?」
確かに電話を渡す時に、敢えて説明しなかった私は確信犯なのかもしれない。
「まあ、いいや。今日の誓いのキス、楽しみにしてな。鈴乃が腰抜けちゃうくらい濃厚なやつしてあげるから」
「ちょっと、ヤダ、それ!」
ギョッとしながら、ブルブル首を振る私を見て、零士さんは面白そうに笑っていた。
………
そして、車はついに目的地へと到着した。
「車止めてくるから、鈴乃は先に降りてて」
零士さんの言葉に頷き、車から降りると、目の前には緑に囲まれた白い教会が姿を現した。
そう、今日私達は、ここで永遠の愛を誓うのだ。
ずっと憧れだったウエディングドレスを着て、大好きな零士さんのもとに嫁ぐ。
なんて幸せなんだろう。
何だか顔がニヤケてしまう。
手で顔を覆いながら、門の方へと歩き出すと、背後から男性同士の会話が聞こえてきた。
「送ってくれてありがとな、雅也。じゃあ、行って来るよ」
「ああ…待てよ、葵。お別れのキス忘れてるぞ」
聞こえてきた会話に耳を疑う。
男性同士でキス?
って言うか、今、葵さんって言ったよね!?
まさか……!
恐る恐る振り返ると、そこには衝撃的な光景が……。
それは、私が人生で初めて目にする男性同士の濃厚なキスシーンだった。
うわっ……。
思わず息を呑む。
でも、二人とも美形だから、結構絵になるなあ……。
なんて、ポーとしながら眺めていたら、突然、背後から目を塞がれた。
「鈴乃にはちょっと刺激が強い」
耳もとで零士さんの声。
「ほら、おいで。バージンロード歩きながら鼻血でも出たら大変だ」
零士さんは私の手を引いて歩き出す。
「ねえ、零士さん。葵さんっていつ彼氏できたんだろうね」
「さあな」
「でも、やっぱりちょっと零士さんに似てたよね」
「…………………」
そんな会話を交わしながら、私達は教会のドアを開けたのだった。
[完]
~読者のみなさまへ~
ここまで読んで下って、本当にありがとうございましたm(__)m 温かいお言葉や貴重なご意見まで頂き、大変感謝しております!! 機会があれば、ぜひ番外編も書いてみたいです。その時はどうぞ宜しくお願い致します(*^^*)