婚活女子とイケメン男子の化学反応
「麻里奈ちゃんが、うちにお嫁に来てくれるなんて感激だわ。ほんとにありがとね」
「おじさんも嬉しいよ。麻里奈ちゃん、英士を宜しく頼むね」
向いに座る村瀬夫妻が、そう言って私に笑いかける。
「はい。おじさん、おばさん。ふつつか者ですが宜しくお願いします」
ぺこりと頭を下げて任務終了。
私は英士と共に村瀬家を後にした。
………
なぜ、こんなことになったのかというと、これには深い訳がある。
実は今朝、鈴乃さんが姿を消してしまったのだ。結婚はできないという置き手紙を残して。
零士は必死に鈴乃さんを探しているけれど、依然行方は掴めぬまま。そして、困ったことに今日は村瀬家への挨拶の日でもあった。
そこで、英士が機転を利かせた。
婚約者を紹介すると電話をよこしたのは、零士ではなく自分だということにしたのだ。
二人は電話の声も似ているから、おばさんも自分が聞き間違えたと納得したようで。
一人で村瀬家を訪れた私に、こっそりとメモを渡して来た。
『今日は俺の婚約者になって欲しい』と。
だから、私はその指示通りに、英士の婚約者のフリを演じたのだ。
けれど、この先どうするのかまでは聞いていない。
英士は弟の為に一肌脱いだだけかもしれないし。
『おまえらはしっかり両思いだよ』
今朝零士はそう言ってくれたけど、私とヨリを戻す気があるのかもの凄く不安だった。
「英士、良かったらうちに寄っていって」
私の実家までは歩いて3分。
とにかく今日は二人きりで、ちゃんと話をしなければと思った。
「うん。ありがとう」
私達はぎこきない空気のまま、実家までの道のりを歩いた。
「久しぶりだな。麻里奈の部屋来るの」
英士は昔のように、私のベッドに腰掛けた。
私も英士の脇にちょこんと腰掛ける。
こうしていると昔に戻ったようにも感じるけど、三年ぶりに会った英士は更にカッコよくなっていて、何だか緊張してしまう。
「麻里奈、今日はありがとな」
「あ……ううん。でも、おばさん達にあんな嘘ついちゃって……ちょっと罪悪感」
フッと笑うと、英士が真剣な顔で見つめてきた。
「麻里奈……婚約のことなら、俺は嘘にするつもりなんてないよ」
「え……」
熱っぽい視線を向けられて、心臓がドクンと跳ねた。
「あ………えっと、それって」
真っ白になった私を、英士が強い力で抱きしめた。
「麻里奈、俺とやり直そう。もう二度と麻里奈を不安にさせたりしないから。麻里奈を一生幸せにするって誓うから」
「英士……」
涙がポロポロとこぼれ落ちる。
「麻里奈、返事聞かせて」
「あ……うん。私も英士が好き。英士とやり直したい」
「麻里奈」
「英士」
と、私の方はバッチリと上手くいき、このあとしっかりと体まで重ねて、愛を確かめ合ったのだった。
そして、別れ際、
「麻里奈も仙台においで。ストーカーの件もあるし、麻里奈をここにはおいておけない。零士だって婚約者のことがあるから、今は麻里奈のことまで気が回らないだろうし」
零士のマンションまで送ってくれた英士がそう口にした。
「うん。英士がそう言うなら仙台に行かせてもらう。でも、すぐには無理かも。今零士ね、結構仕事抱え込んでるの。鈴乃さんのこともあるし、こんな状況で私が抜けたら」
「麻里奈。零士は自分の仕事くらい自分で何とかするよ。それに、零士の婚約者が帰ってこないのは、もしかしたら麻里奈が原因なのかもしれないよ? 俺だったら零士と麻里奈に何もないって信じられるけど、その婚約者からみたらただの男と女だろ? だから、明日俺と一緒に帰ろう」
そこで初めて気づかされた。
『仲いいですよね』
『息がピッタリですよね』
『お互い何でも知ってるんですね』
なんて、鈴乃さんは笑って言っていたけど、もしかしたら彼女に嫌な思いをさせていたんじゃないかと。
私が昔、英士の彼女に嫉妬していたように。
「そうだね。私、英士と仙台に行った方がいいね」
そう決意した私は、零士のマンションに戻り、荷物をまとめながら彼の帰りを待ったのだった。