婚活女子とイケメン男子の化学反応

~零士side~

「村瀬さん、私……ちょっと酔っ払っちゃったかもです。帰りは送ってもえますかあ」

トロンとした顔で俺に甘えてくるのは、橋川が合コンに連れてきた里奈という女。

彼女は始め、俺が橋川の為に連れてきたIT会社の社長、楠木敬也を狙おうとしていた。

だから、それを阻止する目的で彼女の気を惹いていたのだけど、ちょっとやり過ぎてしまったようだ。

まあ、俺が車で来たのは鈴乃を乗せて帰る為で、彼女には一人でタクシーに乗ってもらうことになるのだけど。

俺は逆隣にすわる橋川を意識しながら、「いいよ」と答えた。

すると案の定、橋川は楠木との会話をやめて、話に割り込んできた。

「ダメよ里奈! 村瀬社長の車は二人乗りだし、助手席は私が乗せてもらうことになってるんだから」

「俺、おまえとそんな約束してないけど」

俺は橋川に素っ気なく返す。

「だって、私、社長と同じ方向ですよ?」

「だから?」

「だ、だから……」

言葉を詰まらす橋川を見て、里奈が勝ち誇ったような顔で笑った。

「真奈美さあ、もう村瀬さんにひつこくするのやめたら? 何人もライバル蹴落としたって、全然相手にされてないじゃないの」

すると、橋川は里奈を睨みつけながら、テーブルを思い切り手で叩きつけた。

「この裏切りもの! 覚えてなさいよね、どんな手使ってでも絶対邪魔してやるんだから!」

席を立ち上がり、そのまま出口へと向かっていく橋川。

でも、ここまでは全て想定内だ。

「じゃあ、楠木、あとで迎えにこいよ」

「おう。任せとけ」

面白そうに傍観していた楠木とそんな言葉を交わし、俺は彼女の後を追ったのだった。


…………


「待てよ、橋川。話があるからちょっとこっちこい」

俺は橋川を捕まえて、人気のない路地裏へと連れ込んだ。

「なんですか? 村瀬社長」

橋川は何かを期待するように俺の目を見つめてきた。

「楠木のことだよ。彼のことどう思った?」

「なんだ……その事ですか」

声のトーンが一気に下がり、彼女はため息をついた。

俺は続ける。

「金持ちだし、ルックスもいいし、おまえのその腹黒い性格だって気に入ってるみたいだし? こんな条件のいい男、そうそういないと思うけど」

「腹黒いって……」

「俺がおまえのこと相談したら興味もったんだよ。そういう子、嫌いじゃないって。写真みせたらもろタイプだって言うから、おまえに紹介したんだけどな」

橋川の顔がほんのり赤くなった。

「まあ、私もちょっとは良いなと思いましたけど」

「なら、いいじゃん。試しに付き合ってみれば?」

「いえ! 私は村瀬社長のことが好きですから」

結局、話が振り出しへと戻る。

「橋川さ。いい加減俺のことは諦めなよ? おまえにとっても時間の無駄だと思うし」

「里奈と付き合うんですか?」

「いや、あの子とは付き合わないけど」

「じゃあ、まだ私にも望みはありますよね?」

「ないよ。俺、本命いるから」

俺の言葉に橋川の目が大きく見開く。

「それ誰ですか!! 私、聞いてませんよ? 私の知ってる人なんですか!!」

橋川の興奮した声がビルの壁に反響して響き渡る。

いよいよ最終手段か。
仕方ないな。

俺はスマホを取り出し、橋川に告げる。

「今、近くにいるから紹介するよ。ちょっと待ってて」

そして、

“ごめん。店の裏にいるから来てくれる?”

橋川が真剣な顔で見つめる中、俺は送信ボタンを押したのだった。



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