婚活女子とイケメン男子の化学反応
~零士side~
まさか男相手にディープキスするハメになろうとは…。
『ほら、昔のキス写真もあるしさ、俺が出ていけばさすがに諦めるんじゃない?』
そんな葵の言葉につい頷いてしまったことを、激しく後悔する。
「まあ、協力料ってことで」とニヤケる葵。
「おまえなぁ」と立ち上がると、足もとがふらっとよろけた。
どうやら思った以上にダメージを負っていたようだ。まあ、舌までガッツリ入れられた訳だから当然か。
鈴乃になんて言おう。
そんなことを考えて更に憂鬱になる。
と、その時だった。
「あなたは最低ですね。カモフラージュの為に仙道さんの気持ちを利用するなんて」
敵意剥きだしの声に振り向くと、男が鈴乃を連れて立っていた。
「ちょっと、高津くん!」
鈴乃がそう呼びかけたのを聞き、彼が鈴乃のファーストキスを奪った男だと理解する。
それだけでも不愉快極まりないのに、彼が鈴乃の手を握っていることに気づき、俺の怒りは頂点へと達した。
けれど、今こいつ相手に騒ぎなんか起こしたら、クラス会を楽しみにしていた鈴乃を悲しませることになる。
一旦冷静になろうと、俺は大きく深呼吸した。
「あなたが何を誤解してるのか知りませんが、ひとの妻に気安く触れないでもらえますか」
何とか感情を抑えながら、鈴乃を高津の手から奪い取る。
高津はそんな俺の顔を更に強い目で睨んできた。
「先ほどあなたとキスをしていたそちらの男性は、あなたの恋人なんですよね? これじゃ、仙道さんがあまりにも可哀想だ。あなたが仙道さんをこんな目に合わせるのなら、俺が仙道さんを」
「へえ~。君が鈴乃ちゃんを幸せにするの? そっか、じゃあ、零士は恋人の俺が幸せにしないとね。ハハハ」
「葵!おまえは黙ってろ!」
ふざける葵を睨みつけたその瞬間、鈴乃が俺の首に手を回して唇を塞いだ。
そして、まるでさっきの葵のように俺の唇をこじ開けて舌を強引に割り入れてきた。
まさか…葵に嫉妬?
何、これ。
めちゃめちゃ可愛いいんだけど。
ふと高津に視線を移すと、彼はポカンと口を開けたまま唖然とした様子で固まっていた。
『おまえがどんなに欲しがったところで、鈴乃は一生手に入らないから』
俺が勝ち誇ったような目を向けると、彼の表情が悔しげに歪んだ。
そんな中、鈴乃はキスを続けた。
彼女の貪るようなキスはどこかぎこちなくて、やがてカチンと歯がぶつかった。
そこでようやく鈴乃はキスを止め、俺から唇を離した。
「葵さん、よく聞いて! 零士さんは私のものだから! 葵さんには絶対に渡しません!!」
葵を睨みながらキッパリと言い切る鈴乃。
そんな鈴乃が愛しくて堪らなくなり、俺は彼女の体を思い切り抱きしめた。
「大丈夫だよ。俺は鈴乃だけのものだからな」
鈴乃の頭をヨシヨシと撫でていると、となりで見ていた葵がプッと吹き出した。
「はいはい。愛が深まって何よりだよ。それじゃあ、邪魔ものは退散するとしますかね。ほら、あんたもこんなバカップルに付き合ってないで、さっさと戻る」
そう言って高津の腕を掴むと、葵は俺達の前から去って行ったのだった。