婚活女子とイケメン男子の化学反応

~鈴乃side~

「ヤバイな……鈴乃が可愛いすぎて止まらない。もうこのまま抱いていい?」

私にキスをしながら、とんでもないことを口にする零士さん。気付けばその手はワンピースの中へと入り込み、私の太ももあたりを撫でていた。

「ダ、ダメに決まってるでしょ、こんな所で」

私はハッとして零士さんの胸を押し返した。

ここは、先ほど葵さんが零士さんの唇を奪った場所だ。そして、嫉妬した私が零士さんにキスした場所でもある。

葵さん達が去って行き、私は零士さんの胸に抱きしめられていたのだけど、冷静になればなるほど恥ずかしさが増してきて、顔を上げられなくなってしまった。

『お願い…さっきのは全部忘れて』

私が小さく呟くと、零士さんはクスッと笑いながら私の顔を覗き込んだ。

『何で? 俺、すっげー嬉しかったんだけど。葵にヤキモチ妬いてキスしたり、俺を誰にも渡さないとか…やること可愛い過ぎだろ。そんな可愛いことされたら堪んないよ。もうマジで可愛い』

と、零士さんは『可愛い』を連発しながら、私の口をキスで塞いだのだ。

甘い刺激が脳へと伝わり、しばらくの間、私は零士さんのキスに夢中で応えていたのだけど。

ここで最後までなんて、とんでもない。
零士さんを見上げながら全力で首を振つた。

そんな私を見て、零士さんは悪戯っぽく笑う。

「うそうそ。さすがにこんなとこで抱かないよ。あっ、そろそろ鈴乃もクラス会に戻らないとだな」

彼の言葉で、ふと現実へと引き戻された。

「いや……でも、私」

どうしよう。
私、高津くんの前でキスしちゃったんじゃなかったっけ。
一体どんな顔して戻ればいいのだろうか。

まっ赤になって俯いていると、零士さんが私の手をギュッと握った。

「大丈夫。俺も一緒に行くから。挨拶だけして帰ろう」

「う、うん」

にっこり笑う零士さんに頷いて、私はドキドキしながらパーティールームへと戻ったのだった。


………………



「よかったな、鈴乃。今度女子会に誘うって言ってもらえたな」

帰りの車の中で、零士さんが優しく笑う。

そう。

『ぜひ妻を仲間に入れてやって下さい』と、零士さんがクラスの女性陣に挨拶してくれたおかげで、彼女達は女子会を開くと約束してくれたのだ。

「女子会なら俺も安心」と、満足そうに笑う零士さんは、最後まで高津くんのことは牽制していた。

『仙道さん、元気でね』とわざわざ言いに来てくれた彼に対して、『仙道じゃなくて村瀬だけどな』と嫌みぽっく返しながら睨んでいたのだ。

「うん、零士さんのおかげだよ。ありがとね。でも、高津くんにあんな態度をとる必要はなかったと思うんだけど」

私がクスリと笑うと、零士さんの顔が一気に不機嫌になった。

「何言ってんだよ。あいつ、鈴乃に気がある感じだったじゃん。そもそも、あいつに下心があったから、転んでキスとか、そんな少女漫画みたいなことが起こったんだろ? セコい手使いやがって……ほんっと腹立たしい奴だよな」

「えっ」

いやいや、まさかあの人気者の高津くんがあの当時の私を好きだったなんて、絶対にあり得ないと思うのだけど。

でも、もうこの話にはこれ以上触れない方が良さそうだ。

ブツブツ言い出した零士さんを見て、私は慌てて話題を変える。

「それより零士さん。橋川さんの方は大成功だったよね。これで、やっとホッとできるね」

「あ~まあな、大きな犠牲は払ったけど葵に感謝するべきなのかもな」

大きな犠牲というのは『キス』のことなのだろう。
私もさっきはついカッとなってしまったけど、確かにあれくらい本気でやらなきゃ、橋川さんだって信じなかったかもしれない。

「うん。ホントだね」

私がコクコクと頷いていると、零士さんが何気なく呟いた。

「合コンもしてみるもんだよな」と。

何だかその言葉には素直に頷けなかった。
若い子相手に鼻の下を伸ばしていた零士さんの顔が浮かんでしまったから。

「そうだね、零士さん、ちょっと楽しそうだったもんね。一人、明らかに零士さん狙いの子いたしね。酔ったから車に乗せて欲しいって言ってきた子。あれは零士さんが気をもたせるような受け答えをしてたせいだと思うよ。まあ、橋川さんを意識して、ワザとだったのかもしれないけど、若い子と目の前でイチャつかれて、ちょっと面白くなかったな」

もうこの際、言ってしまえ。
私だってちょっと傷ついたのだ。

すると、零士さんはチラリと私を見て言った。

「何でそんなことまで鈴乃は知ってるの?」

「えっ」

予期せぬ質問を返されて、思わずギクッとする。
心配で時々覗いていたなんて、とても言い辛い。

言葉に詰まっていると、零士さんがクスクス笑い出した。

「あ~そう言えば、あそこのテーブル席の壁って穴開いてたよな。鈴乃、覗いてたろ?」

「まさか、そんなことする訳ないでしょ」

惚けてみたもののバレバレだった。

「そっか、心配で覗いてたのか」

ちょうど赤信号で止まり、零士さんは目を細めて私に優しく微笑んだ。

「だ、だって……零士さんが合コンなんてするから」

「そうだよな。心配させてごめんね。でも、俺は一生鈴乃だけのものだから安心して」

零士さんは膨れる私の頬へと手を伸ばし、チュッと唇に口づけたのだった。





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