婚活女子とイケメン男子の化学反応

~鈴乃side~

クラス会の翌日、私はインターホンの音で目を覚ました。

時刻は朝の7時。
昨夜、零士さんにたっぷりと愛されて、まだ半分夢の中だったのだけど、しつこく鳴り続けるインターホンに再び重い瞼を開けた。

ふとベッドを見回して、零士さんがいないことに気づく。シャワーでも浴びているのだろうか?

私は落ちていた部屋着のワンピースを頭からかぶり、フラつく足どりでリビングへと向かった。

“はい……”

インターホンのカメラに葵さんが映った。

“あっ、鈴乃ちゃん? 朝からゴメン! ちょっといいかな”

切羽詰まった声がスピーカーから響く。

こんな時間にどうしたのだろうとは思ったけれど、夜更かししてしまった私の脳は上手く起動せず、何も考えずにオートロックのドアを開けた。

そして、再び玄関のインターホンが鳴るのを待ってゆっくりとドアを開けたのだけど、何故か目の前に立っていたのは零士さんだった。

「あれ……零士さん?」

不思議に思いながら零士さんの胸に手をかけると、葵さんが慌てて私の手を振り払った。

「鈴乃ちゃん、やめて! この人違うから」

何だか無償に腹が立ち、ムキになって零士さんの胸にしがみついたのだけど、今度は後ろから強い力で引き戻された。

「コラ、鈴乃! 寝ぼけるな。俺はここにいるだろ」

耳もとに零士さんの声がする。
私を抱きしめているのは零士さんだった。

髪が濡れているから、シャワー中に慌てて飛び出して来たのだろう。

え…じゃあ、こっちの零士さんは?
そこでようやく気づく。
目の前にいる男性は零士さんではなくて、葵さんの恋人だということを。

確かこの人は雅也さん。
葵さんと強烈なキスをしていた人だ。

「ご、ごめんなさい」

よく見れば全然別人なのに、寝ぼけていたとはいえ間違えるなんて情けない。

ションボリしていると、雅也さんが零士さんに向かって挑むように言った。

「あんたにちょっと話があるんだけど。上がってもいいかな」

そんな威圧的な彼を困った顔で見つめる葵さんの首には、たくさんのキスマークがつけられていた。

もしかして、昨日の零士さんとのキスを見られてしまったのだろうか。

何だか嫌な胸騒ぎがした。

「分かりました……どうぞ上がって下さい」

零士さんは丁寧に答えると、二人をリビングへと通したのだった。


………



「あんたさ……葵を何だと思ってるんだよ!」

私がキッチンでコーヒーを淹れている間に、リビングは早くも修羅場と化してしまった。

興奮した雅也さんが零士さんに掴みかかったのだ。

「やめろよ、雅也!! あれはしつこい女を追い払う為の演技だって言っただろ。零士は何も悪くないんだよ。全部俺から持ちかけた話なんだから」

葵さんが二人の間に入って必死に声をあげる。

「俺が怒ってるのはそんな事じゃない! この男が葵の気持ちを利用したことが気に入らないんだよ!」

「雅也……」

雅也さんは零士さんを強く睨みつける。

「葵はさ、あんたのことが好きなんだよ! だから、あんたによく似た俺と付き合ってるんだよ。あんただって葵の好意には薄々気づいてるんだろ? 気持ちに答えてやれないなら、もう葵に関わらないでやってくれよ」  

雅也さんの言葉に、零士さんは眉間にシワを寄せて「ん?」と考え込んだ。

どうも雅也さんは、葵さんから何も聞かされていないようだった。

「違うよ、雅也……俺はもうとっくにフラれてるんだよ」

「え……」

葵さんの告白に、雅也さんは驚いた様子で零士さんから手を離し葵さんを見つめた。

「ごめんね、雅也……気づいてるとは思ってたけど、確かに雅也を好きになったキッカケは零士にちょっと似てたからだよ……でも、今は違うから。俺は雅也のことを本気で愛してる。もう零士のことなんて何とも思ってないし、こんな、女の尻に敷かれてバカみたいにデレてる男になんて何の魅力も感じないから」

一瞬、ムッとした表情を見せた零士さんだったけど、そのまま我慢して葵さんの言葉を聞いていた。

「だいたい昨日のキスだってさ……したくてした訳じゃないんだよ。零士には借りがあるし、鈴乃ちゃんにも幸せになってもらいたかったからさ……だから協力したんだ。分かってくれる? 雅也」

「葵……」

「雅也、愛してるよ。ちゃんと愛してるから」

「葵……」

二人は切なげに見つめ合い、ゆっくりと唇を重ねた。

うわ~。
男同士のキスは何度見ても刺激が強い。
ちょっと狼狽えながら零士さんの顔を見ると、そのまま胸に抱き寄せられた。

「申し訳ないんですが……そういうのは外でやってもらっていいですか?」

零士さんの声に二人は慌てて唇を離す。

「すいませんでした。お騒がせしました」

雅也さんは立ち上がり、私達に深々と頭を下げると、葵さんの手を引いて帰って行った。

「何なんだよ、朝っぱらから」

苦笑いを浮かべる零士さん。

「うん……なんか嵐のように来て嵐のように去って行ったよね。おかげで眠気が覚めちゃった」

「しかも、あいつさ……俺とのキスはしたくてした訳じゃないって言ってなかった? けっこう衝撃的だったんだけど」

そんな零士さんの言葉に私はブルブルと首を振る。

「そんなの雅也さんに気をつかって言っただけだと思うよ。どう見ても嬉しそうだったもん! 舌まで入れちゃうし」

思い出す度に腹が立つ。

「ふーん」

「なに?」

「いや……キスされた直後はマジでムカついたけど、案外あのキスも悪くなかったよなって」

「え……何でそんなこと言うの? 葵さんのキスがそんなに良かったってこと?」

ショックを受けながらそう尋ねると、零士さんは満足そうに笑った。

「ほら、こうやって鈴乃の可愛いヤキモチが何度も見れるだろ? 案外悪くない」

私の髪を優しく撫でながら、耳もとで囁く零士さん。
まあ、確かに昨日からこの繰り返しなのだけど。

「も~面白がって」

零士さんはクスクスと笑いながら更に続ける。

「それから……もうひとつ」

「え?」

「橋川からメールが来たんだよ。ほら」

零士さんはちょっと嬉しそうにそう言って、私の前にスマホを差し出したのだった。





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