泣けない少女
家に帰り、優愛は父親の部屋で事情を説明していた。

「つまり、お前がママとはぐれたから怒られてるんだな?」

その言葉に頷く。正確に言えば優里の怒りは別の所にあるのだが、全く身に覚えのない事だったためそれ以外何も言えなかった。

「パパと一緒に謝ろう?きっと許してくれるから」

「うん…」

2人で立ち上がって母親のいる部屋まで歩く。あれから30分近く経っていたためもう怒りも鎮まっているだろうと無意識に考えていたが、それは甘かった。

「お店ではぐれちゃってごめんなさい…」

「……」

優里はこちらを見ない。何も言わない優里を見かねて父親が助け舟を出す。

「優愛もこうやって謝ってるし許してやったら?お前も怒りすぎじゃない?」

それを耳にした優里は鬼の形相で振り返った。

「他に謝ることあるんじゃないの!?ママが心配して探してる姿後ろで笑いながら見てたんでしょ!?何でそんな心無い事が出来るの!」

「そんな事やってない…っ!」

しかしそんな小さな声は母には届かない。

「それほんとか?それはちゃんとパパに説明しなきゃいけなかったんじゃないの?」

それどころか父親までその発言を信じる始末だ。何度否定しても、何度違うと叫んでも、どれだけ泣いたって2人とも信じてくれない。気付けば謝り始めてから既に3時間も経っていた。そして遂に怒られ疲れた優愛はそれを認めてしまったのだ。

「はい…そうです、ごめんなさい」

辛かった。悔しかった。そして何より悲しかった。身に覚えのない母親の被害妄想を押し付けられ、自分の言う事は信じてもらえず、最後には言葉の暴力によって無理矢理それを事実だと認めさせられる。4歳の子供にとっては耐え難い現実だった。

「ほら見なさい。何でもっと早く認めないの?謝らないの?あんたのせいでこんなに時間が経っちゃったじゃない!」

時計は既に夜の10時を指していた。最初に謝ったではないかと心の中で反論するが、母親が言っているのは『心配する自分を後ろで笑っていた』という妄想事について最初に謝らなかった事だ。そんなの無理に決まっているのに、今度はその事で怒られる。優愛の心のキャパシティと眠気はもう限界まで来ていた。

結局母の怒りが収まったのは夜中の11時を回った頃だった。その日優愛は泣きながら眠りについた。心に決して消えない傷を負いながら…。
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