泣けない少女
「優愛、おはよう。よく眠れた?」

朝起きると、昨夜あんなに怒っていた母親は穏やかに笑っていた。優しく頭を撫で、優しい声音で話しかけてくる。いつもの優しい母と怒っている母、どちらが本物の母親なのだろうと優愛は子供ながらに思っていた。

「うん…」

しかし単純なもので、優しくされれば昨日理不尽に怒られた事についても、ああきっと自分が悪かったんだなと思い始めた。

「今日お腹痛い…」

だが体は正直なのか、昨日のストレスからかただ単に偶然かはわからないが不調を訴える。

「大丈夫?今日は保育園休もっか」

父に聞かれない様に声を細めて話す。父親は元々優里が自分を休ませる事に怒っていたが、それは不調の時でも然りなのである。こないだ熱が出て休んだ時も大激怒していた。

「朝飯まだ〜?」

そんな声がリビングから聞こえ、優里は慌てて手を動かし始めた。

ーーーーーーーーーー

「じゃあ行ってくるな。優愛、ちゃんと保育園に行くんだぞ?」

「はーい」

休むつもりだが、それがバレないように元気よく返事をする。先程から続くお腹の痛みに耐えながら、玄関から外に出ていく父親に向かって手を振った。

「じゃあ、ママはお片付けするから少し大人しくしてて?」

「うん!」

食器をキッチンに運んで皿洗いを始める母親の背中を見ながら、優愛は睡魔に襲われ眠りに落ちていった。
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