泣けない少女
「ねえ…今日保育園休もっか?」

あれから1週間程経ったある日の朝、優里はそう言った。今まで何度もこうして休む事があった。今日リサちゃんとリカちゃんと遊ぶ約束してたんだけどなと思いながらも、行くという言葉は口にしなかった。大好きな母親と一緒にいられるのは普通に嬉しかったし、子供ながらに何処かで不安な気持ちを抱えていたからだ。「自傷行為」という言葉も意味もまだ知らなかったが、またこないだの様に自分を傷つけて欲しくないと優愛は思っていた。

「でもパパが帰ってきたらどうしよう…」

そうなのだ、父親はよく家に帰ってくる。何故なのかこの時はわからなかったが、よく優里が自分を休ませているため見張りの様なものなのだったのだろうと成長した優愛は感じた。

「大丈夫!ママがいるから!」

そう言いながら結局いつも二人して殴られるので内心怯えていたが、ここで何か言えば今度は優里が激怒する事を今までの経験から理解していたので素直に頷いた。

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キィ…バタンッ

遊んでいると、玄関の扉が開く音がして優愛は急いで大きな窓から外に出て隠れた。優里が使っているツボを刺激するボツボツがあるサンダルを履いていたので立っていると痛かったが、怒鳴られ殴られるよりはマシだ。家の中から父と母が会話している声が聞こえる。足の痛みに耐えながら、早く仕事に戻らないかなと思っていた。そうこうしている内に扉が閉まる音がして、暫らくすると父の車が走っていくのが見える。もう大丈夫だとほっとしながら家の中に入った。

「サンダルのボツボツ痛かった…」

「隠れなくてもいいのに」

隠れないとどうなるかわかっているから隠れたのだ。流石にそこは譲れない。そしてテーブルの前に座る。おもちゃ箱を引き寄せて、どの玩具で遊ぶか考えながら漁っていく。そしてラッパの形をした音の鳴る玩具を出して遊び始めた。
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