泣けない少女
ブオオン…

「車の音だ!」

あれから2時間ほどして聞き慣れた音が聞こえる。また父親が帰ってきたのだ。慌てて外に出ようとすると、優里が出なくていいと怒鳴ってきた。それに怯み足が止まる。しかし父親に見つかるのは怖い。そう考えているうちに父親はもう部屋の前まで来ている。迷った末に優愛はテーブルの下に隠れた。まだ子供なためすぐに見つかるとは思わずに。

「お帰り〜」

母が父に笑顔で言う。それにただいまと返す父はそのままこう続けた。

「ところで…何で優愛が家にいんの?」

バレた。一気に冷や汗が浮かぶ。頭の中は既にどうしようという単語でいっぱいだ。

「優愛、隠れてないで出てきなさい」

「はい…」

ここで逆らったら余計に怒られると判断した優愛は大人しくテーブルの下から出た。

「何で休んだの?」

「ちょっとお腹痛いって言ってて休ませた」

母が嘘を吐いて父の怒りを回避しようとする。だがそれで許してくれるような人じゃない事を優愛はよく理解していた。

「そのくらいで休ませる親がどこにいる!」

その言葉と同時に父の手は優里の髪の毛を掴み持ち上げる。そしてもう片方の手で頬を殴り飛ばす。

「やめてぇ!」

泣きながら叫ぶ優愛の方を振り返った父は、今度は優愛を標的にした。

「お前もお前だ!どんなに具合悪くても保育園に行かなきゃいけないのが何故わからない!」

そして優愛の頭を全力で殴った。その痛みは何度も経験しているが、やはり慣れるものではない。衝撃で倒れ込むと、また優里に向かって拳を振り上げる。

「そんな怒んなくても良いじゃん!」

「てめぇよくそんな口がきけるな!?」

そして胸倉を掴み無理矢理立ち上がらせる。その拍子に服がビリッと破ける。確かこれで3枚目だったか。

「ごめんなさい!うわーん!」

最早何に謝ってるのかもわからない程に優愛は恐怖していた。でも謝らなければまた殴られる。そう思い何度も何度も謝った。結局父の怒りが静まったのはそれから20分程してからであった。
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