泣けない少女
父親の部屋からカタカタとタイピングの音が聞こえる。そんな音を尻目に玩具で遊んでいた優愛は、段々と楽しくなってきて音を鳴らし始めた。やはり子供なだけあって思考回路は単純である。

｢ねえ、ママも遊ぼ？｣

｢どれで遊ぶの？｣

｢んーとねー…｣

近付いてきた母親の姿に機嫌を良くした優愛は、どんどん喋る声が大きくなっていった。しかしその時父親の部屋からダンッと何かを叩く音が聞こえ、話すのを止める。

｢うるせえ！｣

勢いよく自室のドアを開けた父親はそう怒鳴りつけてきた。ビクッと肩を揺らし怯えていると、父親は近くに置いてあった優愛のお気に入りの黄色い椅子を思い切り蹴飛ばす。そしてプラスチック製の椅子の脚はパキンと真っ二つになった。

｢………｣

あの様に機嫌が悪い時は大人しくしてやり過ごすしかない。泣いても謝っても無駄、それどころか余計に火をつける事になるのだから。

ｶﾞｼｬﾝｯ

水を飲んだ後、使用したガラスのコップをシンクに投げ入れた父はそのまま自室に戻っていった。母が確かめると、やはりコップは割れ使い物にならなくなっていたらしい、父に聞こえない様に溜め息をそっと吐いて優愛の隣に座った。

｢良い？今日はもう玩具で遊んじゃダメ。ほら、寝るよ｣

その言葉に大人しく頷き、優愛は敷いた布団に潜り目を瞑った。明日の朝には父親の機嫌が直っていますようにと願いながら。
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