泣けない少女
優愛は5歳になり、近くの保育園に通うことになった。胸のところにチューリップの形をした名札を付けて、ガヤガヤと騒がしい年中の部屋に保育士の先生と一緒に入っていく。

「はーい、今日から新しいお友達になる高野 優愛ちゃんでーす!皆仲良くしてね!」

拍手はまばらで、少し根暗な性格の優愛は自分は歓迎されてないのではないかと不安になる。前の保育園でも仲の良かったリサちゃんとリカちゃんの2人以外にはよく悪口を言われていたのを思い出す。

「じゃあ皆、今日はそれぞれ遊ぼっか!」

はーいと元気な返事をする皆は、仲の良い友達と輪になって遊び始める。ポツンと一人になった優愛は玩具が入っている箱の近くに行った。そこには2人の男の子が座っていて、緊張してそれ以上進めなかったが、男の子の1人がふとこちらを見てニコリと笑いかけてくれた。

「俺祐(ゆう)って言うんだ!何して遊ぶ?」

そんな風に話しかけられて内心飛び上がるほどに嬉しかった。優愛はおもちゃ箱の中にある一つのコマを持った。どうやって遊ぶのだろうと首を傾げていると、祐が貸してと言ってきたので素直に渡す。

「これはね、ここに紐を巻き付けて…えい!」

地面に向かって投げるとそのコマはクルクルと勢いよく回った。すごいと目をキラキラさせながら拍手する優愛を見て祐は少し照れくさそうに笑った。

「優愛ちゃんもやってみてよ!」

「出来るかな…」

不安になりながらも同じように紐を巻き付け、えいっと掛け声をあげながら放り投げる。するとコマはカシャンと音を立てて転がった。全く回ることなく静止したコマを見てガックリと項垂れる。

「大丈夫だって!他ので遊ぼ!」

そうやって優愛をフォローしてくれる祐はとても優しかった。今まで男の子にはいじめられたことしかなかったため新鮮な気持ちで彼と触れ合う。こんな男の子もいるのだと初めて知った優愛は嬉しくなった。
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