泣けない少女
「こっちので遊んだら?」

そう言ってきたのは近くに座っていたもう1人の男の子だった。

「潤(じゅん)!絵本読んでないで一緒に遊ぼうよ!」

祐が潤と呼んだ男の子は、物静かで大人しい子だった。今まで周りにいた男の子は皆やんちゃで、意地悪だったため優愛はとても新鮮に感じていた。

「えぇ〜…。まだ途中なのに〜」

そして彼は少しマイペースらしい。そんな所が可愛くて優愛はつい笑ってしまった。

「何で笑うんだよ〜」

「ごめん、何か面白くて」

優愛の言葉に2人とも首を傾げる。彼等にとってはこれが当たり前の日常なため、何処が面白いと感じたのかわからないのであろう。

「優愛ちゃん、これなら出来るんじゃない?」

潤が先程手渡してきた玩具を祐が掲げる。赤い玉と金槌みたいな形の何かが紐で繋がっている見たことない玩具だった。

「けん玉知らないの?」

「ううん、知らない」

それを聞いた2人に驚かれる。どうやら有名な玩具らしい。優愛は途端に自分の無知さに恥ずかしさを覚え、俯いた。

「なら教えてあげる」

祐がそう言ってけん玉の赤い玉を金槌に似ているものの皿みたいになっている所に乗せた。金槌みたいな方を持って赤い玉を乗せる動作を繰り返す。

「すごい!」

何でそんなに上手に乗るのか、優愛にとってはマジックみたいなものだった。感動して自然と拍手をしてしまった程だ。

「優愛ちゃんもやってみて〜」

「う、うん」

手渡されたけん玉を祐と同じ様に持ち、赤い玉を乗せようと動かした。しかし力加減がわかっていない優愛はおかしな方向に力任せに振るい、赤い玉はあらぬ方向へ跳ねただけになった。

「……」

「ぷっ!優愛ちゃん不器用だな!」

「うう〜」

笑われたのは少し恥ずかしいが、嫌ではなかった。それは彼が馬鹿にしているわけではなく、それを優愛の個性として認めているからだろう。

「じゃあ次はこっちで遊ぼうよ!」

どんどん玩具箱から玩具を取り出し、片っ端から使ってみる。そのどれもが新鮮で、優愛はこの日家に帰るまで退屈することがなかった。
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