泣けない少女
「それでね、その2人がね」

今日あった出来事を楽しそうに話す優愛の顔は生き生きとしていた。祖父母はニコニコしながら聞いてくれている。だがしかし、優里だけは真顔でタバコを吸っていた。

「ねえママ、あのね」

優愛は無意識のうちに母親に笑って欲しいと感じていた。だからわざわざ母親に向かって話し始めたのだ。だが返ってくる返事は「ふ〜ん」だけ。全く興味の持たれない返答にただ悲しくなる。優里は必死に襲い来る症状と戦っていたため笑顔で返す余裕がなかっただけなのだが、そんな事分かるはずもなく、優愛は遂に言ってしまった。

「何でそんなに冷たいの〜!」

この言葉がトリガーとなり、優里は鬼の形相になった。

「そんなどうでも良い話聞きたくない!さっきから同じ事をくどくどくどくどずっと喋って!いい加減聞き飽きたわ!」

そう言って近くにあったティッシュの箱を優愛に向かって投げた。幸いそこまでの痛みはなかったが、やはり5歳児。すぐに泣いてしまった。

「うわ〜ん!」

「優里!自分の子供になんて事するんだい!」

祖母が優里を叱る声を聞きながらも、優愛は泣き止むことがない。

「うるさい!優愛が悪いんでしょ!それにすぐ泣くんじゃない!うるさい耳障り!お前の汚い涙で服を汚すな!」

そう怒鳴られた優愛は更に泣いた。そしてまた怒られる。その悪循環だった。自分は何で怒られているのだろうか。泣いているからだろうか、それとも嬉しかった話をした事だろうか。どんなに考えてもその理由にたどり着くことは出来ず、泣きじゃくる。そして祖父母は優里を責めた。

「皆優愛の味方して!優愛は良いよね愛されてて!良いよお前らの望み通り死んでやる!」

そして台所に向かっていってしまった。遠目から母親が包丁を持ち出すのが見えた。それを祖母が後ろから羽交い締めにし留める。それから数十分の奮闘の末、何とか優里は落ち着いた。
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