泣けない少女
「……」

対面に座っている祖父が血走った目で自分を睨んでいるのが目に入る。いつもいつも庇われるのは優愛だ。自分の事などだれも心配してくれない、考えてくれない。そう思うと泣きたくなるより先に怒りが込み上げてきた。

「…ヒック…グスッ…」

下を向いて泣いている優愛を見ると余計に怒りに火がついた。泣けば何でも許されると思っているのだろうか。

「ねえ、何で謝んないの?」

「え…?」

呆けた顔で聞き返す優愛。つまりは謝るという思考そのものがないということだ。

「普通さ、謝るよね?自分が悪い事したんだもんね?なのに何で謝れないの?自分は悪くないって思ってるの?どんな頭してればそんな考えになれるの!?」

「だって…もう遅いとか聞きたくないって…」

「言い訳するな!普通は悪いって思えば謝るものでしょ!?」

一度言葉を紡いだら自分でも止められなかった。頭の片隅でダメだと思っているにも関わらず口は止まってくれない。

「あんたもあいつと同じだね!人の事馬鹿にして、貶して!あんたなんて引き取らなきゃ良かった!」

顔が元夫と似てきている。それだけで憎しみが込み上げてくる。その場の勢いでとんでもないことを言ってしまった自覚はあるが、すぐに訂正する事なんてできなかった。それ程に心荒ぶっているのだ。

「うるせえ!そんな文句あるならこの家から出てけ!」

今まで黙っていた祖父がそう口にする。数時間前にも同じ問答をしたが、同じ日に同じ様な事を繰り返すなんて事はしょっちゅうあった。

「あーもういい!ご飯いらないから!」

優里はやり切れなくなり、立ち上がって足に力を入れて階段を上って行った。自分の部屋に入って扉を閉めた途端涙が溢れてきた。

「もうやだ…なんで自分だけ…」

ふとテーブルの上を見遣ると、そこには1本のカミソリがあった。優里はいつの間にか虚ろな目をしたままそれに手を伸ばし、そっと手に取った。
< 33 / 35 >

この作品をシェア

pagetop