泣けない少女
「…い……おい!」

自分を呼ぶ声にハッとして目を覚ますと、そこは白い天井、白い壁に囲まれた部屋のベッド…病室だった。

「お前は何をしてるんだ!」

「…何で生きてるの…?」

夫の怒鳴り声も耳に入らない程に優里の頭の中は『死ねなかった』という一つの事実でいっぱいだった。

「目が覚めましたか?」

その時医師が病室に入ってきた。話を聞くところによると、忘れ物を取りに偶然家に帰ってきた夫が台所で倒れている私を見つけ、慌てて救急車を呼んだらしい。

「優里さん、この病院にはカウンセラーがいます。一度カウンセリングを受けてみたら如何ですか?」

断ろうとしたが、この胸のうちを誰かに聞いて欲しいと思った私は暫し考えた後、後日カウンセリングを受けることにした。ここの精神科に予約し、この日は夫と2人で家に帰った。優里は保育園に行かせたままなので夫が迎えに行ってくれた。

ーーーーーーーーーー

そして数日後、予約した時間に精神科を訪れた優里は医師から重度のうつ状態と診断された。前に行った赤石病院ではそこまで重度ではないと言われていたのに…。

「とにかくこの後すぐにカウンセリングをしてもらいます。薬は…」

その日医師に出された薬は1日64錠もの大量の薬だった。薬の量は病気の重さに比例しないとは聞かされたが、流石にこの量は異常だろう。

診察室を出た優里はカウンセリングルームに案内された。そこで待っていたのはまだ若い女性。本当に大丈夫か一気に不安が襲う。
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