泣けない少女
そして堕胎手術が終わり、もう自分のお腹の中に子供はいないんだと泣いていると、携帯が鳴った。夫だった。

『まだ帰ってないの?早く帰ってきてくれないと夕飯食べれないじゃん』

その声には怒気が含まれていた。恐怖した私は痛みに耐えながら電車で帰り、そのまま夕飯の支度をした。

何度離婚を考えただろう。いや、実際何度か離婚届を見せたことはあった。しかし夫は別れたくないと絶対にサインする事は無かったのだ。

「今では私よりも休日の娯楽を優先していて…夫婦の時間は殆どありません」

話したくない事を全てさらけ出し、俯く。カウンセラーは驚きで声が出ないのか暫く何も言わなかった。

「…では、今度夫さんを連れてくる事は可能ですか?」

「そんなの無理です!」

即座に否定する。今の夫には私に対する愛なんて微塵もないのだから。病気になった途端手のひらを返したのがいい例だろう。

「大丈夫、今まで何人もの患者さんを見てきた私が説得するから。お願い、ね?」

尚も私は無理だと訴えたが、彼女が諦めることは無かった。渋々了承し、今度の休日に夫を連れてくることを約束した。
< 7 / 35 >

この作品をシェア

pagetop