【短編】手のひらを、太陽に…
 葵の顔はとても白かった。

 唇の色は真っ青で、以前にも増して痩せていた。だけども、表情はとても穏やかだった。

 お腹の前で組まれた右手の薬指には、1週間前と同じくシルバーの指輪が光っていた。

 志音はその穏やかな表情に吸い込まれるように、葵の頬に手を伸ばした。が、中指が触れた瞬間、あまりの冷たさに驚いて手を引いてしまった。

 思えば、志音の17年の人生の中で人の死を目のあたりにしたのはこれが初めてだった。

 志音は逃げるようにして病室を出ていった。

「志音!」

 あとから公英が追いかけた。
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