【短編】手のひらを、太陽に…
「…おんちゃん…志音ちゃん。」

 桜井の声で志音は目覚めた。辺りを見回す。

「そろそろ降りる駅だから。」

 桜井に言われ、志音は帰りの電車に揺られて眠ってしまったことに気付いた。
 ふと顔をさわると、頬が濡れていた。右目から涙が一筋伝い落ちていた。

「…お父さんは、私を助けようとしてくれた。」

「え?」

 突然の志音の言葉に、桜井は訳が分からず問い返した。

「自分で、お腹刺した時。目の前で見てたお父さんは、私を助けようとして包丁を抜いたの。それが逆にお父さんが犯人に疑われちゃう原因になったみたい。」
「…そうね。それでお父さん、諦めて自分がやったって言ったのかしら?」

 桜井はそう質問しながらも、答えがわかっているようだった。

「…違う。……お父さんも、私を想ってた。なのに…私は本当のこと言わなかった。お父さんを、信じてなかった…。」

志音は涙を流した。桜井に肩を抱かれ、二人は電車を降りた。

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