恋し、挑みし、闘へ乙女
スキャンダラスな失踪
「大変でございます!」

國光が梅大路邸に息せき切って駆け込んだのは、乙女が糸子と会うと言って出掛けた三時間後だった。

「あまりにもお迎えの連絡がなかったもので……」と國光が紅子とミミに事のあらましを説明する。

「茶房鼓に入り、乙女様のことをお訊ねしたのですが、店の者曰く、『一時間ほどで出て行かれました』それも『男性の方と』と……」

「男ですって!」

紅子の眉尻が鋭角に上がる。

「ちょちょっと待って下さい。乙女様は糸川公爵の奥様、糸子様とお会いになる、と言って出て行かれたのですよ。どうして男性と……まさか、誘拐!」

両の手で口を塞いだミミが目を見開く。

「私もそれを危惧して店の者に追求したのですが、和気藹々と出て行かれたとのことで……」

「どういうことですか! まさか乙女様が不埒にも殿方と失踪されたということですか?」

「とんでもない! 乙女様は未だ夢見る夢子さん。父上様とお兄様以外に親しい男性は綾鷹様しかおられません!」

紅子の意見をキッパリ否定するものの、状況が状況だけにミミの肩が下がる。

「――ご一緒だと思っておりました糸子様は? どこにいらっしゃるのですか?」

ミミの質問も当然だ。

「そこなのです。店の者曰く『そんな女性は来ていない』とのことで……」
「はぁぁ、何で? どうして!」
「ミミ、少し落ち着きなさい」

紅子は腕を組み「うーん」とうなり声を上げながら天井を見上げると、おもむろに視線を國光に戻す。

「國光さん、携帯に電話は入れたのですね?」
「はい……ですが留守番電話になっておりまして……」
「ではGPSは?」
「携帯が生きている限り作動しております」
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