恋し、挑みし、闘へ乙女
うーん? 目を覚ました乙女は目を擦り、辺りを見回してハテナ顔になる。

「――ここはどこ?」

あばら家と思しき光景に口がアングリと開く。

「おや、お目覚めですか? 乙女お嬢さん」

突然の声に乙女はドアの方に視線を向け、途端に「あっ! あぁぁぁ!」と飛び起き、声の主を指差す。

「貴方は元チンピラの荒立龍弥!」
「イチイチ、元チンピラを付けるんじゃない!」

龍弥が目くじらを立てる。

「そんなことより、ここはどこ? 貴方は何をしているの? 目的は何?」

一息に言葉を発した乙女は眩暈を覚え、今まで寝ていたソファーらしきものに座り込む。

手に触れた白い布を異質に感じた。
どうやらソファーの上に真新しいシーツが掛けてあるらしい。

異質だと思ったのは、部屋にある調度品と比べてだ。部屋は高価な骨董品……というより古美術にも成り得る素晴らしい物で溢れていた。

「無理するな。まだ薬が効いている」
「薬ですって! 何を飲ましたの?」
「何って睡眠薬?」

なぜ疑問形?
いや、それよりそんなのいつ飲まされたの?

乙女は辿るように記憶を遡る。えっと、茶屋鼓で糸子様を待っていて……糸子様の使いという男性が現れ、『待ち合わせ場所が変更になりました』と言って、それから車に乗せられて……。

だが、乙女の記憶はそこでプツリと途切れる――あれから私はどうなったの?

「でも薬を盛ったのは俺じゃないぞ」
「じゃあ、誰なの!」
「丸永の御大(おんたい)だ」
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