恋し、挑みし、闘へ乙女
乙女はソッとソファーから立ち上がると、抜き足差し足で窓の方に向かい外を見る。

「二階……」

大きな夕焼けがもう少しで地平線に沈みそうだ。オレンジ色の世界は美しいが……今は感動している場合ではない。

「飛び移れるような大きな木はないし……運動音痴の私がここから飛び降りたら、きっと捻挫では済まないし……」

どうしたものかと考えながら部屋の中を見て回っていると……。
ん……? 人の声が聞こえてきた。どこからだろう、と乙女は耳を澄ます。

声は火の気のない暖炉からだった。
通気口が一階の暖炉と繋がっているらしい。

『娘は?』
『眠ったようですよ、今さっき龍弥から電話がありました』

こもった二つの声はどちらも龍弥ではないようだ。

『龍弥という男、大丈夫なのだろうな? 御前に迷惑をかけれんからな』
『金が命の男。与えた分はしっかり仕事をしますがそれ以外のことはしない男です』

龍弥の言葉通りだった。

『まぁ、いい。奴も全てが済んだら……』
『これ、ですね』

小説家だけあって、乙女には二人の様子が優に想像できた。
“これ”と言いながら、男の手が自分の首を真横に切るシーンが浮かび、乙女は両手で口を押さえる。
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