恋し、挑みし、闘へ乙女
「ええ、この道でした」

見覚えのある風景を食い入るように見ながら乙女が声を上げると、綾鷹は「そりゃあ、賢いナビの誘導だから間違いはない」と笑う。

そして、小一時間もしないうちに目的地である茶房鼓に着く。

「確か……國光は『運転手の待機室で待っている』と言って君を玄関先で下ろし、駐車場に車を停め、君からの連絡を待っていたんだったね」

「ええ」と乙女が返事をすると、今回は店の前で乙女を下ろさず駐車場に向かう。
駐車場は店の裏手にあり、表玄関からは死角となる位置にあった。

「なるほど、これでは國光がもし駐車場で待っていたとしても、乙女が出て行く姿を見ることは出来なかったね」

綾鷹の言葉に乙女も「本当ですね」と同意し訊ねる。

「――ということは、糸子様はそこまで考え、待ち合わせの場所をここにしたのでしょうか?」

乙女の質問に綾鷹は「違うだろうね」と答える。

「彼女に指示した人物が他にいる。だが、糸川の奥方がなぜそれに加担したかは分からない。それは追い追い本人に追求するとして……」

ガチャと車のドアを開け、「とにかく降りよう」と綾鷹は先に車外に出る。

「加担した相手とは永瀬蘭丸ですか?」

助手席のドアを開ける綾鷹に乙女が訊ねる。
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