恋し、挑みし、闘へ乙女
――それにしても、家出をしてすぐに男に襲われるなんて……事実は小説より奇なりだわ。そうだ、いっそこの経験を小説にしたためたらどうかしら、と乙女が現実逃避からプロットを考え始める。その時だった。

「おやおや」

前方から第三者の声が聞こえた。

「君は確か……元チンピラの荒立龍弥〈あらだてりゅうや〉君じゃないか?」

乙女を拘束していた手がビクッと震える。そして、声の方を見た途端、荒立龍弥と呼ばれた男が「ウワッ!」と叫び乙女から離れる。

「うっ梅大路綾鷹〈うめおおじあやたか〉!」

一拍遅れて乙女も前方に目を向け、目を見張った。
佇んでいたのは、白い制服に身を包んだ凜々しい男性だった。

この制服は、“和之国”の者なら誰もが憧れる……国家親衛隊だ!
あれっ? その顔に乙女は見覚えがあった。そして、ああと思い出す。

「こんな早朝から逢引かい? こっちはやっと仕事が終わったというのに羨ましいね」

チャラけた言い方だが、その眼は全く笑っていない。

「違いますよ、誤解ですよ。旦那、見逃して下さい。俺、今キップ切られたら牢屋送りなんですよ」

「へぇ」と言いながら綾鷹がポキポキと指を鳴らす。
その姿はこの前見たアクションサスペンスのヒーローみたいだった。

ついウットリとその姿に魅入り、いや今はそんな悠長なことを思っている暇はない、と我に返った乙女は声を張り上げる。

「後生ですから助けて下さい!」
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