恋し、挑みし、闘へ乙女
「ふーん、助けてねぇ。逢い引きじゃないんだ」

綾鷹が片方の眉尻を上げた。

「荒立龍弥君、君はまだ懲りずにヤンチャを続けていたのかい?」

まだ……と言うことは昔から悪い奴なんだと乙女は思う。

「ちっ違いますよ! 本当に誤解ですから」

龍弥が思いきり頭を振り、言い訳を始める。

「仕事ですよ!」
「仕事?」
「そうです。俺、今、探偵の助手をしていて、頼まれたんですよ」

探偵? この男が? 乙女は胡散臭と思いながら、より龍弥から離れるため綾鷹の背に逃げ込む。

「でぇ、このお嬢さんを拐〈かどわ〉かせ、とでも言われたのかい?」

「えっと、それは……」と、しどろもどろになりながら龍弥が言う。

「このお嬢さんの気っ風の良さがズキュンと俺の胸を貫いてですね……」
「ほう、惚れたとでも言うのかい?」
「そっ、そうなんです! 一目惚れです」

龍弥はコクコクと何度も頷くが、絶対に何か隠していると乙女は推察する。

「まぁ、嘘か真かは追求しないでおいてやろう。だが、無理矢理というのは頂けないね。君を拐かしの現行犯で逮捕することも出来るんだよ」

「だから、本当に勘弁して下さい」と龍弥の顔が青ざめる。

「厭なら、今日、彼女に会ったことは報告しないことだ。どうだい?」

「そんなぁ、仕事なのに……」とこの後に及んでもなお文句を言いながらも、龍弥は逮捕されるのはご免だとばかりに承知する。
< 14 / 215 >

この作品をシェア

pagetop