恋し、挑みし、闘へ乙女
「約束だからね。もし破ったら……」

綾鷹が龍弥を見る。その眼に先程までの柔らかさはない。鷹のような鋭い眼光に龍弥はヒッと身を縮め「はい!」と即答する。

「あっ、それから」とすっかり萎縮した龍弥に綾鷹が近付く。そして、その耳元に顔を寄せ何か囁いた。見る間に龍弥の顔が驚きの表情になり、青い顔が蒼白になる。そして、「申し訳ございませんでした」と深々と頭を下げた。

何を言ったのだろう、と走り去る後ろ姿を乙女が見送っていると、「さてと」と綾鷹が振り返り乙女に視線を向けた。

朝日に照らされた綾鷹の顔は神々しかった。
本当、いつ見てもナイスガイな男だ、と乙女は先日のニュースを思い出す。

「ところで、こんなに朝早くから君はそんな大きな荷物を持ち、ここで何をしていたのだね?」

一難去ってまた一難。家出してきましたとも言えず乙女は固まる。

「君の口から言えないのなら私が言おうか? 乙女さん」
「えっ、名前、どうして?」
「荒立龍弥君が言っていたじゃないか。それに……」

どういうこと? 事情を知っているということは、ずっと見て知っていたということ? 乙女の顔が怒りで真っ赤に上気する。だから、綾鷹の『それに』に続く言葉を聞き逃す。

「どうして、もっと早く助けてくれなかったのですか!」
「どうして? 逆ギレかい。自業自得のくせに!」

――あれっ、なぜか彼の方が滅茶苦茶怒っている? どうして?
< 15 / 215 >

この作品をシェア

pagetop