恋し、挑みし、闘へ乙女
「五階も六階もない! 言っておくが君の恋愛対象は私だけだ」

恥ずかしげもなく全くこの男は……と羞恥で顔を赤らめながらも、乙女の口角が自然に上がる。

「綾鷹様って……意外に子供っぽいですね?」

ムッとふて腐れたように「君に対してだけだ」と宣う綾鷹を、乙女は不覚にも可愛いと思ってしまった。それを誤魔化すように、「そろそろ離れて頂けませんか?」と小さく睨む。

「うむ」と言いながら、なかなか離れようとしない綾鷹だが、流石にこのままではラチがあかないと思ったのか、「名残惜しいが」と言いながら乙女から手を放すと暖炉の方に足を進めた。

「声が聞こえてきたというのはここからだったね」
「はい、くぐもった声が確かに聞こえました」

乙女は綾鷹の隣に並ぶと腰を屈め暖炉を覗き込む。

「この部屋の真下はダイニングだ」

綾鷹が胸ポケットから四つ折りの用紙を取り出し広げる。

「それは……?」

腰を伸ばすと、今度はそれを覗き込む。

「屋敷の見取り図だ。部下が調べて描いてくれた」

それはとても緻密に描かれていた。

「私たちが今いるのは、ここだ」

綾鷹が二階と書かれた部屋の一つを指す。
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