恋し、挑みし、闘へ乙女
「そして、その真下がここ」

綾鷹が言った通りだ。そこに『ダイニング』の文字があった。

「行ってみましょう!」

「その前に」と綾鷹が隣の部屋に続くドアを開ける。

「この部屋に龍弥がいたんだね」
「ええ、そうです」

乙女も綾鷹の脇から部屋を覗き見、訊く。

「ここは……?」
「おそらく控えの間だ」

奥行きはこちらの部屋と変わりないが、幅は……壁までの距離が二メートルもない。そこに三人掛けのチェストと本棚が置かれているだけの小部屋だが、窓があるからかそれほど圧迫した感じはしない。

「ウォークインクローゼットのようにも思えるが違う。ほら、廊下に続くドアがある」

なるほど、「では、私がいた部屋は……」と改めて乙女は広々とした部屋の中を見回す。

「この図面から言えば、主賓室みたいだね。鏡卿の部屋だったのだろう。見取り図を見ても分かるように、この階で一番広い部屋だ」

それに、と綾鷹が付け足す。

「どうやら鏡卿は猜疑の塊のような男だったみたいだ」
「どうしてそんなことが分かるのですか?」

綾鷹が顎で暖炉を指す。

「暖炉?」
「そう、そこから聞こえる声を聞いていたのだろう?」
「――もしかしたら暖炉が盗聴器の役割をしていたとか?」
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