恋し、挑みし、闘へ乙女
「ああ、すまない。すっかり忘れていた」

だが、それは嘘だと乙女はすぐに分かった。

「口元が上がっていますよ」

しかし、早く隠し部屋を見たい乙女はそれ以上何も言わず、見取り図に目を向ける。

「私たちが今いる位置なら、四つの使用人部屋の真ん中、ここが近いですね」

地図上では二部屋が背中合わせになっている。だが、“回”の字のように中心に四角い柱がある。

「ああ、この部屋ね」と言いながら綾鷹が訊ねる。

「どこから入ると思う?」
「地図の上からでは分かりません。実際に見てみないと」

歩みを進めながら乙女が言うと、綾鷹がいいことを思い付いたと指を鳴らす。

「ゲームをしようか? 隠し部屋の入り口を君が一つ見つけるごとに、僕は君の願いを一つ叶える。でも、見つからなかったら君が僕の願いを叶える。どうだい? 乗る?」

「願いは何でもいいということですか?」

「当然」と綾鷹が涼しい顔で言う。

「乗った!」

編集社が作家同士のグループをSNSで組んでいて、乙女もそのメンバーの一人だった。メンバーには推理作家もいる。そこで小説の裏話などが明かされてるのだ。トリックについても然りだ。

作家を舐めんじゃないわよ!
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