恋し、挑みし、闘へ乙女
乙女はそこで語られていたトリックを思い出すと、勝算はある、とニヤリと笑う。

「了解! じゃあ、始めようか」

到着したのは見取り図にあった使用人部屋の一つ。そのドアの前だった。

「鍵は掛かっていない。好きに見るといい」

「窓がないから暗いだろう」と綾鷹がペンライトを渡す。

それを灯し、乙女は早速部屋の中に入る。四畳半ほどの狭い部屋だ。簡易な木製ベッドとサイドテーブルが部屋の隅に置かれている。

「このドアの奥はクローゼットですね」

乙女はベッドが置かれている反対側の壁に目を向け、その取っ手を引く。

壁と壁の間に渡された二メートルほどのステンレス製ポールが目に入る。そこにハンガーが五本掛かっている。乙女は一メートルほどの隙間に入り、ペタペタと壁を触りながら中の様子をジックリ見る。

「普通なら……」と天上を見上げるが、天井裏に続く入り口はない。

「降参かな?」

綾鷹が楽しそうに訊く。

「とんでもない! まだまだです」

天上にないということは……と乙女の視線が足元を向く。コツコツと足を踏みならし床を確かめるが、ここも空振りだった。
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