恋し、挑みし、闘へ乙女
「但し、君が思っているような卑猥なことではないだろうがね」
「ひっ卑猥って、そんなこと思っていません!」

「どうだろうね」と口角を上げながら綾鷹がペンライトの先をカチャ回す。すると四つの窓から音が聞こえてきた。

「これ、何なんですか?」
「各部屋に超小型DAP(デジタルオーディオプレイヤー)を置いてきた」

それをペンライトから遠隔操作してスイッチをオンにしたらしい。

「いつの間に……もしかしたら隠し部屋にはマジックミラーだけではなく、隠しマイクも仕込んであったのですか?」

無言で綾鷹が頷く。

「暖炉同様、ここから使用人の様子を伺っていたのですね」

鏡卿の異常な行動に乙女はゾッとする。

「この小部屋は防音室になっているらしく、ここの音が外に漏れることはないようだ」

「物凄く粘着質な厭な感じ……」乙女は自分の身を守るように腕をクロスする。

「鏡卿はこうやって自分の身を自分で守っていたのだろう」
「でも……殺されてしまった」

「その話なのだが……」と綾鷹が少し言い淀み、続きを口にする。

「一説に、殺されたのは替え玉だという説がある」
< 163 / 215 >

この作品をシェア

pagetop