恋し、挑みし、闘へ乙女
「鏡卿のですか? なら、本物はどこにいったのですか?」
「それは今以て分からない」

それにしても……と乙女は改めて思う。鏡夜露が悲話の主人公となったのは二十五年前。当時、鏡卿はまだ八歳だったはず、こんな大仕掛けの隠し部屋を彼が作った?

「――もしかしたら、鏡卿って天才だったのですか?」
「ああ、僅か八歳で既に大学に入れる能力を持っていたらしい」

聞けばIQが200近くあったそうだ。

「それで合点がいきました。ならこんな手の込んだ屋敷を作るくらい朝飯前ですね」

綾鷹が頷く。

「だからこそ、お家騒動に巻き込まれたのだと思うよ」

「お家騒動?」とオウム返しをしながら嗚呼と思い出す。

「外腹だと言われていた夜露卿の存在が疎ましくなった何者かが手を掛けた、というあの話ですね? 超優秀だったからなんですね」

だが、いくら本妻の子である月華の君を王にしたいからと、八歳の子を殺めるとは人非人もいいところだ。

「当時の文献によると、継承者問題で“月華の君派”と“夜露卿派”の二派に別れ、激しく対立していたとある。当時の王、星華の君は表面上中立を保っていたが、やはり本妻の子である月華の君を跡取りにしたかったらしい」
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