恋し、挑みし、闘へ乙女
「なるほど。それが噂で『実の父が鏡卿を殺めた』になったのですね」
「その通り、真犯人の思う壺だ」

「あっ!」と乙女が口を押さえる。

「黒棘先夜支路伯爵!」
「君も分かったようだね」

コクコクと乙女が頷くと綾鷹が言う。

「内々に調べたところ、この噂は本物だということが分かった」
「何ということ!」

「ということは、鏡夜露卿は実の父に殺されたと思いながら死んでいった……あれ? でも死んでいないのですよね?」

「そうかもしれない、としか今は言えない」と言いながら綾鷹が渋い顔をする。

「だから尚更厄介なんだ」
「どういうことですか?」

綾鷹曰く、鏡卿は王家を恨んでいるだろうということだ。

「でも、真犯人は黒棘先では?」
「それを知らずに育ったとしたら?」

おそらく生きていたら今も……。

「そういうこと」
「そういうとは、どういうことですか?」

「あの時『御前』と呼ばれたのは黒棘先で間違いないだろう。でも、そのバックに鏡卿がいる、ということだよ」

「えっ、でも……」

それって全て黒棘先が悪いのに、どうして敵と味方がごちゃ混ぜになっているの?

「君の言いたいことは分かる。鏡卿はおそらく利用されているのだろう。天才故に」
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