恋し、挑みし、闘へ乙女
「えぇぇぇ!」と乙女の目がまん丸になる。

「立場上、夫人も覆面作家を名乗っているから知らないのも当然か」
「――当然です!」

本日一番の驚きだった。
ミミに教えたい! でも、ダメだ! 乙女の心の中で小さな葛藤が繰り返される。

「――次に行くよ」

ブツブツと呟いている乙女に綾鷹は訝しげな瞳で言う。

そうだった、と我に返ると乙女は「それで、どの隠し部屋にも鏡卿はいなかったのですか?」と訊ねる。

「ネズミ一匹いなかった。でも、我々国家親衛隊特別チームはこの屋敷内のどこかに鏡卿がいると思っている。それを裏付けたのが今回の拐かし事件だ」

「確かにそうですね。わざわざこんなところに私を運ばなくてもいいですよね」

「そう、例え人気がないと言っても縁もゆかりもない場所に来る必要はない。それに、あの茶屋からここまで、かなり距離がある。移動時間が長ければそれだけリスクが高くなる」

「道中の防犯カメラとかですか?」

「それもあるが」と綾鷹は言い、「睡眠薬の効果もだ。もし、君が移動途中に目を覚ましたら? 厄介だと思わないかい?」と訊ねる。

「確か……眠っていたのは一時間ほどです」
「だろ? 薬の効果がそのぐらいだったんだろう。なら、遠距離になるほど道中に目覚める確率が高くなる」
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