恋し、挑みし、闘へ乙女
乙女はプリプリしながらも階段を降りる。ここにも窓はない。

「ちょうど本棚の裏に当たる。ここにはマジックミラーはないが……」

綾鷹が蝶番のようなものを右にスライドさせると、直径五センチほどの丸い覗き窓が現れる。

「この穴から図書室が覗けるようになっている。穴は二十箇所ある」

そう言って綾鷹は次々に蝶番を外しスライドさせる。
穴から差し込む光が真っ暗な隠し部屋を照らす。

「意外に広い空間です……ね」

辺りを見回した乙女が、「えっ!」と一点に目を止める。

「気付いたみたいだね」

気付いて然りだ。

「あれって……」

部屋の隅に二人掛けのテーブルと二脚の椅子、そして、冷蔵庫、スタンド式の照明、扇風機、電気ストーブ……引きこもり生活が送れる最低の生活必需品が揃っていた。

だが、乙女の気付いたのはそこではない。

「私が欲しかった最新式のミニ冷蔵庫だ!」

乙女曰く「小さいのにとても便利な奴」だ。

「この青いボタンでクラッシュアイス、赤いボタンで炭酸水、白いボタンで冷水が出てくるんです。それもミネラル水ですよ!」

「使い方は簡単。水道水を所定のポットにセットするだけ」と興奮気味に話す姿は家電芸人のようだ。
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