恋し、挑みし、闘へ乙女
驚愕の事実に乙女の口がパカンと開く。

「拐かしの件は謝っても謝りきれないわ」

吹雪が深々と頭を下げる。

「化け物屋敷の噂、知っているわよね?」

それを調べていたらしい。その中で龍弥は蘭丸と知り合ったようだ。

「その件からとんだ大物が引っかかって……」

大物とは黒棘先のことだと言う。

「でも、まさか拐かす相手が貴女だったなんて……」

青天の霹靂だったらしい。当然のことだ。吹雪に綾鷹の件も花嫁修業の件も伝えていなかったのだから。

「拐かしの件は……」
「――知っていたわ」

「でも……」と吹雪は目を伏せる。長い睫毛が吹雪の表情を隠す。

「――敢えて止めなかった。取材のために……」

反省しているようだが、その声に後悔の色は混じっていない。

「私もジャーナリストの端くれ、大物が引っかかると思えば……少しぐらいの犠牲は厭わない」

「最低の人間でしょう、私って」と苦笑するが……やはり苦渋の選択だったのだろう。それでも……。

「犠牲となったのが私だったから良かったと思います。でも、万が一、他の誰かだったら……私、貴女を殴っていたと思います」

言うべきことは言っておかなくては、と乙女はキツク吹雪を睨み付ける。

「いいえ、それが誰であろうと、殴ってくれて構わないわ。気が済むまで」

顔を上げた吹雪が毅然と言う。
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