恋し、挑みし、闘へ乙女
「彼女に恋人がいたことも?」

「はい」と乙女が頷くと、吹雪がフッと自嘲めいた笑みを零す。そして、「その恋人……私なの」と呟くように言った。

「はい?」

乙女は耳を疑い、訊ね返す。

「糸子様の恋人が黄桜編集長?」
「そう、私」

あまりのことに「うっそぉぉぉ!」と声を張り上げたまま、乙女は固まってしまう。編集長は何度私を驚かせたら気が済むのだろう……。

「あの子とは彼女が十八歳になる二年前に出逢ったの」

当時を思い出したのだろう、吹雪が遠くを見る。

「今は見る影もないけど、当時のあの子はふっくらとして、とても肉感的だったのよ」

あの虞美人草を思わす儚げな人が……肉感的……全然想像できないと乙女はフルフルと頭を振る。

「当時、私は別居していたけど既婚者には違いなかったの。だから、糸子と私はお互いに好き同士だったけど、ずっとプラトニックな関係だったのよ」

「でもね」と吹雪が顔を歪める。

「あの子の見合い相手が糸川公爵だと知ったとき、渡したくない、と思ったの」

糸川公爵の派手な色恋は周知の事実だったらしい。

「私の離婚について何か知っている?」

突然、吹雪が質問をする。

「いえ、全く」
「そう、実は私と彼、カモフラージュ結婚だったの」

またしても意味不明の言葉に乙女の頭は爆発しそうになる。
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