恋し、挑みし、闘へ乙女
「ええ。糸子はまんまと騙されたの」
「それは黒棘先の手の者に、ということですか?」

「そう」と吹雪が頷く。

「糸子に、私と貴女の仲を誤解させるような密書が届いたらしいわ」

「はぁぁぁ!」と呆れ眼の乙女が「有り得ない!」と吐き捨てるように言う。

「本当よね、私が糸子意外に惹かれるなんてこと絶対にないのにね」

さようですか、と乙女は生温かい視線を吹雪に向けながら、「で、誰がそんなものを送ったのですか?」と訊ねる。

「分からない。でも、きっと黒棘先の手の者だと思うの」
「その手紙は……?」
「ちゃんと取ってあるわ。万が一、指紋が残っているかもと厳重に梱包してね」

それも綾鷹に渡すつもりだと言う。

「でも……糸子様と編集長の仲って内緒ですよね? どこからバレたのでしょう?」

フルフルと吹雪が首を左右に振る。

「分からない。でも、糸子が計画に乗ってしまった、ということは敵に密書の内容は真実だと教えたようなものなの」

それを公にされて糸子が傷付くのが怖い、と吹雪は言う。

「梅大路綾鷹が私の話を聞いたら激怒するのは目に見えているわ。大切な見合い相手を傷付けたのだから……。それでも、私は糸子を助けたいの」
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