恋し、挑みし、闘へ乙女
「ちょっと、起きないさいよ!」

ユサユサと揺すぶられ乙女は飛び上がる。

「なっ何事! 地震?」

だが、運悪くそこに蘭子の顎があり、乙女の頭は蘭子の顎に激突する。

「貴女、私に恨みでもあるの!」

涙目の蘭子が鬼の形相で乙女を睨み付ける。
恨みならたくさんある、と乙女は心の中で肯定する。

「着いたんですか?」
「だから起こしたんでしょう!」
「素直に『着いた』と言えないんですか?」

あー言えばこー言う。本当に負けず嫌いのお嬢様だと乙女が溜息を吐いていると、同じような台詞が蘭子から返ってくる。

「とにかく、ほら、さっさと降りなさい!」

蘭子が乙女の腕を乱暴に引っ張る。

「別にそちらから降りなくても……」

ドアは左右にあるのだから、と思いながらも蘭子に続き、同じドアから車外に出る。
そして、目前にある訪れたばかりの化け物屋敷を溜息交じりに見上げる。

威風堂々とした佇まいは相変わらずだが、不気味さが増したように感じるのは蘭子と一緒だからだろうか、と乙女は綾鷹を思う。

彼と一緒のときは夏の風物詩でもある“お化け屋敷”に来たようなワクワク感があったのに……。

「何よ、その残念そうな顔は!」

乙女の微妙な顔に気付き、蘭子が苛立たしそうに入り口のドアを開ける。
だが、先日綾鷹と入ったドアではない。
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