恋し、挑みし、闘へ乙女
「ご存じではなかったのですか?」
「何を!」
「お見合いの相手が人間の手で操作されているのをです」
「そんなの嘘よ! 私の相手は綾鷹様よ」

ああ、と乙女は気付く。
蘭子は綾鷹のことが好きなのだと。でも、自分では気付いていないのだと。

「その様子では蘭子さん、貴女は改ざんには関わっていなかったのね」
「その口ぶり、我が一族が関与しているとでも言うの!」

怒りで血走った瞳が乙女を睨み付ける。

「関与ではなく首謀者です。黒棘先一族が世の中を滅茶苦茶にしているのです」
「そこまでだ」

突然第三者の声が聞こえ、乙女も蘭子も息を飲む。

「お爺様!」

ゆっくり近付いて来る人物は、杖をついてはいるが威圧感たっぷりの老人だった。

「この人が黒棘先夜支路……」
「蘭子、お客様と立ち話とは行儀が悪いよ。さぁ、こちらへ」

丁寧な言葉遣いだが、それが余計に不気味に思え、乙女の背筋に厭な汗が流れる。

「ほら、お爺様がああ仰っているのよ、早く行って!」

蘭子に背中を押され、乙女は再び歩みを進める。

「――ここは?」

薄暗い横穴の到着地点はシルバーの扉だった。それを夜支路が開ける。途端に眩しい光が乙女の視界を奪う。
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