恋し、挑みし、闘へ乙女
咄嗟に閉じた目をゆっくり開け、乙女は目を見張る。
そこは白い明かりに包まれたコンピューターだらけの部屋だった。

「何、ここ?」
「突っ立っていないで入りなさい」

夜支路の指示に従い、蘭子が乙女の背中をドンと押す。

「蘭子、ご苦労だったね」

労いの言葉に蘭子の顔が見たこともないほど嬉しそうな笑顔になる。
蘭子は夜支路が大好きなのだろうと乙女は思う。

「桜小路乙女さんだね? ごきげんよう、黒棘先夜支路だ」

改めて挨拶を済ますと、「失礼して座らせてもらうよ」と部屋の一角にある応接セットに歩みを進め、ブラックレザーの椅子に腰を沈める。

ここが彼の定位置なのか実にしっくりくる光景だと乙女が眺めていると、「君たちも座りなさい」とローテーブルを挟んだ向かいのソファーを指差す。

「ほら」蘭子が乙女の腕を引き、自分の横に乙女を座らせる。

「今日のこの失礼なご招待の意味は?」

腰を下ろした途端、乙女は噛み付くように訊ねる。

「これはこれは、威勢のいいお嬢さんだ」

ほうほうほうと夜支路が笑う。
でも、その眼が全く笑っていないのを乙女は気付いていた。

綾鷹とは違う、蛇が蛙を狙うようなねっとりと絡みつくような厭な眼だ。
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