恋し、挑みし、闘へ乙女
「今回ばかりは少々分が悪くて、君に人質になって貰おうと思ってね」

どうやら運転手に電話をかけると同時に、夜支路たちにも連絡が入っていたようだ。

「先日の誘拐も……」
「察しのいいお嬢さんだ。あれは警告の意味もあったんだが」

「おい」と夜支路が声を掛けると、どこからともなく黒づくめの男が現れた。
「あっ!」と乙女の口から驚きの声が漏れる。

「貴方は永瀬蘭丸!」
「おや、覚えていてくれたのかい? 嬉しいな」

蘭丸がニッコリ微笑む。だが、「あいつをここへ」と夜支路が声を掛けると、たちまち顔を引き締め、「御意」と軽くお辞儀をするとまた姿を消す。

「君に引き合わせたい者がいる」

乙女は夜支路の薄気味悪い微笑みに薄ら寒さを覚える。

しばらくすると、「クソッ、縄をほどけ! 俺は犬じゃない」大声で怒鳴る男の声が聞こえてきた。

「まさか……」

記憶が正しければ……と乙女が思っていると、やっぱりだった。

蘭丸に引きずられるようにして現れたのは龍弥だった。彼の首には犬のように首輪が付けられていた。そこから伸びるリードを蘭丸が乱暴に引っ張る。

「クソッ、痛いだろう!」

憎々しげに蘭丸を睨む目がハッと乙女の方に向く。

「なっ何でお嬢がここにいるんだ!」

龍弥の目がこれ以上ないほど大きく見開かれる。

「なるほど、やっぱり君はこのお嬢さんと知り合いだったんだね」
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