恋し、挑みし、闘へ乙女
そんな三人を無視して夜支路は奥に続くドアを開け、乙女に視線を向けた。

「おいで……真相に近付きたくないかい?」

真相? あのドアの向こうに何があるのだろう……乙女はグッと顔を引き締めると一歩ずつ足を前に出す。

「行くな!」

龍弥の声が乙女の背中を追いかけるが、乙女は振り向くことなく夜支路の後に続く。

ドアの向こうは壁に囲まれた狭い廊下だった。オレンジ色の灯りが点っているが薄暗い。夜支路は廊下の突き当たりまで来ると右手に折れる。そこにまたドアがあった。

「これより先は君一人で行きなさい」

どういうことだろう? 乙女の顔が怪訝に曇る。

「それが、あの方の命〈めい〉だ」
「分かりました」

あの方が誰なのか、乙女には何となく分かっていた。だから、敢えて訊ねず乙女は開かれたドアへと足を進めた。

部屋は廊下同様薄暗かった。あちこちに置かれているのは燭台型の電灯のようだ。

コツコツと乙女以外の足音が聞こえる。どうやらその足音は乙女の方に向かっているようだ。乙女は煉瓦造りの暖炉の前で足を止め、足音の主を待つ。そして、現れたのは……。

「えっ? 月華の君?」

いや、違う。あの時会った月華の君より幾分線が細い。

「ようやく会えましたね。桜小路乙女さん」
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