恋し、挑みし、闘へ乙女
「もしかして、貴方が鏡夜露卿?」
「おや、ご存じでしたか?」

月華の君と面差しが似ている。でも……と乙女は鏡卿をジッと見つめる。

美しい顔だが、透けてしまいそうほど青白い肌のせいか生気が全く感じられない。まるで死者のようだと乙女はゴクリと生唾を飲む。

「そんなに緊張しないで。こちらに来てお座りなさい」

部屋の中央に置かれたロココ調のソファーセット、その一人掛けのソファーに腰を下ろしながら鏡卿が向かいの席を指す。

「鏡卿!」

相手に飲まれる前に、と乙女は声を上げる。

「聞いて下さい! 貴方は黒棘先伯爵に騙されています」

そして、鏡卿の前に立つと綾鷹たちが言っていたことをそのまま伝える。

「利用されているのです。すぐ私と逃げましょう!」

鏡卿が乙女を見上げる。そして、フッと笑みを零す。

「君は面白い子だね」
「笑い事ではありません! 夜支路卿が気付く前に!」

フルフルと首を横に振ると鏡卿が訊ねる。

「黒棘先が言っていただろ? 私は彼らの黒幕だよ」

確かにそうだ。「でも……」と乙女は力強く断言する。

「それにはきっと何か訳があるはずです。月華の君のお兄様が悪い人であるはずがありません!」
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