恋し、挑みし、闘へ乙女
「そうだね。俗に言う天才かな」

普通の人が自分のことを『天才』などと言えば嫌味にしか聞こえないが、と乙女は思いつつ、鏡卿の言葉にはなぜか納得する。

「だから、お父上であらせられる星華の君が貴方を亡き者にしようとしているという噂を全面的に信じるはずがない、と思ったのです」

「だが、当時、私はまだ八歳だった。思慮深くもない。噂を鵜呑みにするのでは?」

フッと乙女が笑みを零す。

「何をご謙遜を! まだ八歳ではなく、もう八歳なのでは? 黒棘先卿はそこを誤った。貴方を侮っていたのです」

「なるほど」と鏡卿の口角が上がる。

「そして、貴方は黒棘先卿の陰謀を知った。婚ピューターを違法に操作しているのを……」

「ほほう」と鏡卿が初めて頷く。

「きっと貴方は考えたはずです。このままでは黒棘先が和之国を滅ぼすと」
「流石、作家先生だね。バラバラになっていたピースを拾い集めるのが上手い」

鏡卿の目尻が下がる。益々月華の君にソックリだ。

「貴方は敵の手の内にまんまと引っかかったフリをして、見事に裏婚ピューター室を……こちらが本物でしょう。お役所にある婚ピューター室はフェイクですね。それを乗っ取った」
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