恋し、挑みし、闘へ乙女
「真の策士ですね」と乙女は感心したように微笑む。

「しまったな」と鏡卿が残念そうに溜息を吐く。

「月華王の相手を君にせず、私にしておけばよかった」
「はい?」
「まぁ、元々梅大路綾鷹が君の相手なのだが……彼に渡すのが惜しくなった」

益々意味が分からない、と乙女がマジマジと鏡卿を見つめていると、いきなり鏡卿が立ち上がる。そして、目前に立つ乙女の手をグッと引き、その身を抱き締めた。

「なっ、何をなさるのですか!」
「君が気に入った。私の妻になりなさい」

この男……メチャクチャだ!
乙女は身をよじり、その腕から逃れようと抵抗する。

「この穴蔵にやってきたのが運の尽き。もう、逃れられない。諦めなさい」
「諦める? 私の辞書にはそんな言葉はありません! 諦めるものですか」

乙女がギロリと鏡卿を睨む。

「でも、よく考えてみたまえ。ここから逃れたとしても、君は大嫌いな梅大路と結婚しなくてはいけないのだよ」

「諦めているじゃないか」と皮肉を込め言う。

「――誰が大嫌いだと言いました? 私は綾鷹様が……好きです!」

乙女の凜とした声が部屋に響く。

「――だそうだよ、梅大路綾鷹君」
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