恋し、挑みし、闘へ乙女
「ありがとう。菊衛門もいつも以上にダンディーだわ」
「当然です! 先代当主から頂いた燕尾服を着用しているのですから」

菊衛門の一張羅だ。年季が入っているにもかかわらず、彼は「先代からのプレゼントなので」と一向に新調しようとしない。

「それでは、ジャン、お嬢様をお願いしますね」
「駒江さん、承知いたしました」

二人は先代の頃より桜小路家に仕える奇特な使用人だ。何でも、先代夫人にひとかたならぬ恩を受けたとのことだ。

情けは人のためならず……貧乏生活を陰で支えてくれたのは誰あろう、この二人だった。乙女は二人を見るたびにこの言葉を思い出す。だから……いつか必ず菊衛門に素敵な燕尾服をプレゼントしよう、と心密かに思っていた。

「お嬢様、よろしいですね、絶対に羽目を外さぬように!」

ミミが念押しのように乙女の瞳を覗き込み言う。

「ご成婚を祈っております!」

瞳に真っ赤な炎が見え、乙女はあまりの迫力に、「――りょ了解です」と一歩後退してコクコク頷いた。

――万が一、破談なんてことになったら……こっ怖い!

乙女がそう思うのも無理ない。ミミは空手、合気道、長刀、弓……あらゆる武道に精通していて、どれも有段者だった。


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