恋し、挑みし、闘へ乙女
乙女を乗せた車は、市街地から街中に入る。
車窓の外に目を向けた乙女は、走り去る街路樹に自由気ままな十八年を重ねる。

「――だからお相手の殿方に失礼にならないように!」

一葉の言葉を遠くに聞きながら、ジャン・菊衛門の心地良い運転に身を任せ、これで本当に私の人生も終わるのね……と乙女は悲嘆に暮れる。

「本当にいつ見ても素敵なホテルねぇ」

目前に鳳凰ホテルが見えてくると、長々と話していた一葉の『本日の注意事項』が終わった。

「確か……浪漫建築と呼ばれる建築方法だったわね」

車を降りた一葉がフロントヤードを見回し感嘆の息を吐く。
鳳凰ホテルは西の国と呼ばれる異国の建物を模写して作られている。

「ええ、お母様。著名な建築家、タロー・ヤマガタの作です」

異国の世界に想いを馳せる乙女もこの建物が大好きだった。

もし、月華の君の利点を挙げよと言われたら、乙女は唯一この鳳凰ホテルを挙げるだろう。このホテルが国王の命により建てられた迎賓館だからだ。

セキュリティーチェックは厳しいが、ロビーラウンジのみ一般の者の入場が許可されていて、乙女は執筆に行き詰まるとよくここにお茶を飲みに来ていた。

「女々に続いて乙女まで鳳凰でのお見合いだなんて……」

一葉が嬉々とするのも当然だった。
この格調高いホテルで見合いを許されているのは、高爵位の者だけだからだ。
< 26 / 215 >

この作品をシェア

pagetop