恋し、挑みし、闘へ乙女
「またお会いしましたね」
「おや? 綾鷹、君は彼女を知っていたのかい?」

月華の君が少し驚いたように訊ねる。

「はい。顔だけはパーティーで何度か」と言い、「それに、つい先日、奇妙なご縁で知り合いになりました」

綾鷹が意味深に笑む。余計なことを言うなと乙女は眼で綾鷹の言葉を制する。そこにノックの音が聞こえ、「失礼します」と上品な婦人がお茶と茶菓子の載った盆を持って入ってきた。

どう見ても仲居には見えないと乙女が思っていると、婦人が深々と頭を下げる。

「本日はようこそお越し下さいました。当ホテルの女将をさせて頂いております、白鳥美空〈しらとりみそら〉と申します。どうぞごゆるりとお過ごし下さい」

女将がお茶の準備を済まして部屋を後にすると、待ち構えていたように月華の君が言う。

「まぁ、何はともあれ座りましょうか」

だが、一葉も乙女も固まったまま動かない。

「おやおや。陛下、先に少し説明が必要かもしれませんよ」

含み笑いを浮かべたまま綾鷹が言う。

「なら、君が説明をしてくれ」
「御意」

綾鷹が左胸に手を当て、軽く頭を下げ乙女の前に立つ。

「桜小路乙女さん、単刀直入に言います。貴女の見合い相手は月華王です」
< 28 / 215 >

この作品をシェア

pagetop