恋し、挑みし、闘へ乙女
「はいぃぃ?」と素っ頓狂な声を上げ乙女が綾鷹を見る。その横で一葉がアワアワと何か呟いている。

「陛下も二十八歳。そろそろお相手が現れると思っていました」
「――そそっそのお相手が私だと……」

ようやく我に返った乙女が確認するように訊く。

「ええ、貴女のお相手として、陛下の名を婚ピューターが告げました」

何と畏れ多いことだ! 乙女の顔も一葉の顔も真っ青になる。

「――ということで、とにかく座って頂けませんか?」

月華の君がクスクス笑いながら視線で前の席を指す。

これはきっと……と先日の失言を思い出す。彼を“ボンクラ”とか“怠慢”とか言った罰だ。乙女は心の中で猛烈に反省する。

綾鷹にエスコートされ、乙女と一葉がようやく席に着くと、月華の君が「この茶菓子は私が特別に用意させたものです。美味しいですよ」と満月の絵が描かれた包みを解き、中から掌に乗るほどの大きさの丸いお菓子を取り出す。

「西の国で評判の“ツキミ”という菓子です。白い生地に黄身餡が挟んであるのですが、この餡が実に美味しいのです」

子供のような笑みを浮かべ、月華の君が嬉々と説明する。

「陛下、菓子の説明はそれぐらいで……」

綾鷹が苦笑しながら話を止める。
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